宇宙マイクロ波背景輻射の観測により宇宙論的パラメータの値がよい精度で決定された現在、銀河の形成・進化と銀河分布のつくるより大きなスケールの構造形成を理解することは宇宙論に残された重要な未解決問題である。この形成に本質的な役割を果たすのが暗黒物質であり、重力レンズは唯一、暗黒物質を直接検証できることから、重力レンズの観測は極めて重要である。このような観点から我々はすばる望遠鏡を用いた重力レンズの観測から以下のことを発見した。 1.すばる望遠鏡の主焦点カメラによる遠方銀河団領域の観測データを用いて弱い重力レンズ解析を行った。 この銀河団はまわりにフィラメント上の銀河分布をもち形成途上であると考えられているが、重力レンズ解析から暗黒物質分布は銀河分布とよい一致をしめし、冷たい暗黒物質(CDM)による構造形成シナリオに合致する結果を得た。 2.近傍銀河団A1689のハッブル宇宙望遠鏡の強い重力レンズ観測とすばる望遠鏡による弱い重力レンズ観測を組み合わせることによって、銀河団中心部から周辺部にいたる正確な質量分布を求めた。この結果、銀河団の正確な質量と、密度分布を得た。この密度分布はCDMシナリオの予言する密度分布と形状は一致しているものの中心集中度が理論予想よりも大幅に大きいことを発見した。さらに多数の銀河団に対して同様の観測を行うためハッブル宇宙望遠鏡とすばる望遠鏡にプロポーザルを提案し、一部が採択され、観測を行った。
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