ゲージ理論のlarge N極限は、いわゆる江口・川合のreduced modelと呼ばれる行列模型によって記述されると考えられている。我々は、格子上のカイラルなゲージ理論に対応するreduced modelを考え、その模型におけるゲージアノマリーの可能性をはじめて組織的に議論した。まず、フェルミオンがU(N)の基本表現に属する場合のアノマリーを広い範囲のゲージ場の配位について計算する手法を与えた。さらに、一般のゲージ表現に対して、このゲージアノマリーをlarge Nの極限で計算した。近年、Ginsparg-Wilson関係式という関係式に基づいた格子上のカイラルフェルミオンの定式化の方法が提案されている。我々はこの進展に基づいて、格子上でのWess-Zumino-Witten作用を定式化し、その幾何学的性質を解析した。そこでは、連続理論のWess-Zumino-Witten作用が持つトポロジカルな性質が、Ginsparg-Wilson関係式のおかげで格子上の理論のレベルで保証されることを示した。従来から、アノマリーの考え方を利用して、2次元のボゾン化法を基礎づける方法が知られていたが、その導出法では、アノマリーのうちの局所相殺項で消すことのできる自明な項が重要な役割を果たす。この点に関して従来の議論にあったある種の混乱の原因を、局所性に基づく議論によって完全に明らかにした。また、格子ゲージ理論におけるマヨラナおよびマヨラナフェルミオンの定式化に関して、空間の次元数によっては定式化に大きな困難があることを指摘し、この困難がWittenのいわゆる大局的アノマリーと関係していることを議論した。また、アノマリーのある系の量子化をGinsparg-Wilson関係式に基づいた格子定式化の観点から再考察し、矛盾のない定式化が一般に不可能であることを示した。この結果は、いわゆるGreen-Schwarz mechanismによってアノマリーが相殺されている理論の非摂動論的定式化の可能性にも意味を持つ。このほかに、4次元の超対称なWess-Zumino模型を格子上で大局的U(1)対称性を保って定式化する研究などを行った。
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