量子情報理論への幾何学的研究 この基盤研究の途中の2003年から、東工大21世紀COEのプロジェクトが始まり、それとリンクした形で「量子情報理論への幾何学的研究」を開始した。そのために慶応大学の古池氏に共同研究者として参画して頂いた。そこでは主に2つのテーマを取り上げた。 (細谷) (1)エンタングルメントについての幾何学的理解 簡単な2キューピット系について、ブロッホ空間の拡張を行い理解を深めた。更に、それと物理的な設定と比較するために、マッハツエンダー干渉系にスピン自由度を含ませたショークビストのモデルにおいて、簡単なノイズを入れたものを考察した。それによると、エンタングルメントは干渉の強さの減少関数であることが示された。このことは、量子計算など量子情報理論の中で多くの人が感じ取ってきた実感と一致するが、定量的且つ明示的に示されたことは初めてである。その相補性の原因が基礎物理的な興味だけではなく量子情報的な意味合いも持つことが面白い。 (2)量子情報空間における測地線 量子情報空間に計量を導入することができることは、97年頃から東欧の研究者達によって知られている。量子情報空間における2点間の距離は、量子操作を行えば減少する(2つの情報の区別がより付かなくなる)という意味の単調性を要求すれば、たった一つの任意関数をのこして決まる。量子情報処理の最適解を、測地線という観点から調べることが可能になる。この報告書を書いている段階では測地線の方程式を明示的に書き下し、ゲージ固定条件(parallel transport condition)の意味を明らかにしたという定式化の整備を行ったのが主な成果である。それに対して、4次元量子空間の簡単な場合に、測地線の方程式を数値的に解きその振る舞いを調べたところである。 (古池) 量子状態空間の幾何について研究中である。特に、古典情報理論における確率分布の空間上のRiemann計量(Fisher計量)の量子論的な自然な一般化である単調計量を対象とした。一般の場合について測地線方程式を導出し、解の振舞いを調べた。また測地線偏差の方程式により、初期条件の違いがどのように時間発展するかを調べつつある。また、Riemann曲率の振舞いとの関係も調べつつある。特に2キューピットの場合に以上のことを詳細に見ている。これらの結果は量子計算のアルゴリズムや誤差評価と深く関係する。今後それを論じる予定である。
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