あたえられた標準的な初期状態から、目的の状態に最短時間で到達するための、(一般には時間に依存する)ハミルトニアンを、一定の制約の中で探す問題を考えた。これは、量子計算の回路の最適な構成、デバイスの最適な設計など実際的な問題であると同時に、一般的に量子系の制御の問題と捉えても興味深い。 この問題を変分原理で定式化するときに、(1)状態変化はシュレーディンガー方程式に従うこと(2)ハミルトニアンは、自然法則からの制限、使えるエネルギーが限られていること、あるいは実験上の制約など、拘束条件が課せられていることを、ラグランジュ未定係数法により取り入れる。変数は、状態ベクトルとハミルトニアンの両方である。変分から、シュレーディンガー方程式と、量子最速方程式と名付けた普遍的な微分方程式が得られ、それらを解くことにより最適なハミルトニアンを得る。それにより、最速の量子状態時間発展を得る。いくつかの簡単な純粋状態の例で実証した(第1論文)。次に、これを初期状態によらない一般のユニタリー変換を最適化する問題に拡張し、量子計算に即した例で示した(第2論文)。さらに、これを混合状態の場合に拡張し、マスター方程式が成り立つ物理的状況(短時間のマルコフ過程の繰り返し)場合に同様の変分原理を定式化する。変分から、最適のハミルトニアンとリンドブラッド演算子が求まる。実例のスピン一個の系で興味深いことに、測定過程を用いて混合状態を経由する状態変化の方が速い場合がある。今後は、より現実的な終状態実現に誤差のある場合への拡張を行い、多キュービットの場合を数値的に解くことに進むが所定の目的は達したと考えている。
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