重力の量子化が問題となる物理的環境は、重力が電磁力などと同程度の強さとなるプランクスケール(10のマイナス19乗センチメートル)程度の系の現象である。そのような状況を加速器など人工的手段により実験研究することは、現在考えられる技術ではほとんど絶望的であり、このため量子重力の研究は単に理論家の自己満足に過ぎないと揶揄されてきた。しかし、宇宙誕生時のスケールやエネルギーは、まさに量子重力により実現されるべきものであり、その痕跡は天体現象に見出される可能性があるとして観測的努力が払われている。特に、最近はCOBEやWMAPなど観測衛星を用いた宇宙背景輻射の揺らぎのスペクトルに熱い注目が集まっている。もし宇宙が誕生した直後にインフレーションと呼ばれる光速を超える急激な膨張が起きたとするなら、量子重力的揺らぎのパターンが、運動学的な混合を回避して、そのまま巨視的宇宙の物質揺らぎとなって保存されると考えられる。 本研究では、背景輻射の揺らぎのスペクトルを、コンフォーマル重力を基礎とする量子重力理論、およびそれと同じユニバーサリティークラスに属すると考えられる、格子量子重力シミュレーションにより求め、COBEやWMAPで観測された角度パワースペクトルと比較した。その結果、現象論的理論では説明できない大角度の相関が、量子重力に特有な力学的効果として説明できることを示した。またこの理論では未知の場を作為的に導入することなくインフレーションが自然に起きることも示している。
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