研究概要 |
定常的な真空の量子化に限定して採用されていた統計力学的手法を改良し、境界のある非定常的な空間で、系の時間的発展が扱えるアルゴリズムを開発した。それを3次元の量子重力シミュレーションを例にとり説明する:分配関数は、R×S^2のトポロジーを持つ3次元空間の可能な単体分割配位の集合からなる。その要素は、単純な配位を出発点に、6種の‘ムーブ'を‘詳細釣り合い'を満足する確率で実行し、マルコフ鎖を作る。ムーブは1個の三角形を3個に分割する(1,3)ムーブ、その逆の(3,1)ムーブ、それに2個の3角形で作られる4角形の対角線を付け替える(2,2)ムーブに対し、これらを2次元球面に四面体を1つ付け加えるか、取り外すことで実現する。すなわち4面体の付け外しにより、従来の2次元量子重力シミュレーションを行いながら、面で囲まれた体積も変えることにより、境界のある3次元空間の量子化を行う。このアルゴリズムが、はたして宇宙の生成を正しく記述できるかを確かめるため、R×Sのトポロジーを持つ2次元宇宙について理論との比較を行った。2次元シミュレーションは、ランダム行列模型や、境界を持つリュービル場の理論などの理論的予想があるため、プログラムの検定に適している。系の大域的な性質をきめる宇宙定数や境界宇宙定数の臨界値の測定では、行列模型の予想を再現する事が確かめられた。時間を宇宙のエントロピーに対応させることにより、インフレーションが自然に出ることも示せた。その結果は、平成17年8月ボン(ドイツ連邦)で開かれたCOSMO05、同9月カラ・ゴノーネ(イタリア共和国)で開かれたQG05、および同12月にマイアミで開かれたMiami2005国際会議において口頭発表した。さらに、このアルゴリズムは行列模型が予想するグラフの数を再現することを見出した。現在、リュービル場の理論が予想するスケーリング則を検証中である。
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