研究概要 |
本研究計画では、深非弾性相互作用の構造について、従来の摂動論的量子色力学ではあまり論じられてこなかった新たな特徴を弦/ゲージ双対性を基礎に研究を進めることを目的とする。最近の弦理論における大きな発展としてlarge N極限の超共形SU(N)ゲージ理論とAdS空間の超重力/弦理論との対応関係いわゆるAdS/CFT対応がある。ここではこの双対性を手がかりとして、ゲージ場と弦理論での深非弾性過程を解析し、これまでの摂動論的QCDによる弱結合の強い相互作用から、中間領域を経て強結合の強い相互作用の領域での深非弾性散乱過程の構造を明らかにするのを目標とした。当該研究計画の最終年度である平成17年度は、弦/ゲージ双対性を基礎にした理論的解析、量子異常に関連する偏極光子構造関数、LHCとコライダーの物理を中心に研究を遂行した。従来、弦模型にカレントとの相互作用を入れると形状因子や構造関数はスケール変数xや運動量移行の2乗Q^2について指数関数的に振る舞うと考えられてきたが、AdS/CFT対応に由来する計量テンソルの中のwarp factorにより、べき的振る舞いが得られることが明らかになった。特に、small xで弦の励起状態が中間状態で寄与する場合について、新たに偏極構造関数の場合につき、x,Q^2依存性を調べた。一方、将来の電子・陽電子線形衝突型加速器(リニア・コライダー)で重要となる2光子過程において測定可能な光子の偏極仮想光子の構造関数のQCDでの計算及び仮想光子中のクォークとグルーオンのスピン依存分布関数の解析を遂行した。さらに、カイラル・アノマリーに結びつけられる偏極光子構造関数g_1^γの1次モーメントに対するQCD和則のNext-to-next-leading-order(NNLO)の量子補正を求めた。口頭では、2005年10月に湘南国際村で開催されたRADCOR2005の会議において発表した。また、光子構造に関連して、一般化されたパートン分布に関係するDeeply Virtualコンプトン散乱を光子を標的とした場合に拡張する仕事に着手した。また、2007年に開始される予定のハドロン・コライダーLHCでの強い相互作用の効果について摂動的QCDの立場からの検討をKEKの研究者と行った。計画の実施においては、国内各地とりわけ、高エ研・横浜国大などの関連する分野の研究者との討論・研究交流が有益・不可欠であった。
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