研究概要 |
本年度の研究内容および成果は次の通りである. 1.4次元軸対称ブラックホールの大域的構造の研究:Kerrブラックホールの一般化である富松佐藤解(TS解)およびその非回転極限であるZipoy-Voorhees-Weyl解(ZVW解)の大域的時空構造を調べ,これまで知られていなかった特異構造およびホライズン構造を明らかにした.特に,ZVW解に関して,その特異点集合は変形パラメータδが1より大きいときリングの構造をもつこと,特異点は裸であるにもかかわらずδ>0のとき正の質量を持つこと,δが2,3ないし4以上のときこの特異リングを赤道とする縮退型ホライズンをもつことを示した.また,TS解については,δ=2の解が2成分の縮退型ホライズンをもち,それらが円錐特異性をもつ軸でつながっていることを見いだした.これらの成果は,Class. Qauntum Grav.誌に発表された. 2.静的高次元ブラックホールの摂動論:宇宙項をもつ任意次元のEinstein-Maxwell系において,球対称な場合を含む一般化された静的ブラックホール解の摂動方程式が,互いに分離したSchrodinger型2階常微分方程式(マスター方程式)の系と同等であることをゲージ不変な定式化を用いて示し,対応する有効ポテンシャルおよび源項の具体的表式を世界で初めて与えた.さらに,この定式化とS-変形という手法を用いて,宇宙項がある場合の4次元球対称静的ブラックホール,任意次元のSchwarzschildブラックホール,宇宙項がゼロ以上で4次元および5次元の電荷をもつブラックホールが摂動的に安定であることを証明した.また,定常的摂動解の振る舞いを詳しく調べることにより,漸近的de Sitter4次元正則ブラックホール解,任意次元の漸近的平坦および漸近的反de Sitter正則ブラックホール解が,静的極限の近傍で球対称解およびそれに回転を加えた解に限られること(摂動的一意性定理)を示した.これらのうちマスター方程式およびブラックホールの安定性に関する成果は,Prog. Theor. Phys.誌に3編の論文として発表した.また,摂動的的一意性に関する成果については現在論文を作成中である.
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