本研究課題は、弦理論の定式化の一つである「弦の場の理論」を用いて、弦理論の様々な非摂動論的性質の解析を試みると共に、弦の場の理論の定式化自体の再考も目的とするものである。Cubic String Field Theory(CSFT)とVacuum String Field Theory(VSFT)の2種類の弦の場の理論に対して、以下のような研究を行った: (1)CSFTにおける時間依存古典解の解析 CSFTは不安定D-braneの周りの弦の場の理論であるが、このD-braneが時間と共に崩壊して行く過程を表す時間依存古典解の振る舞いを調べた。弦の場の理論は時間について無限階微分を含むという点で通常の場の理論と大きく異なり、この解析は弦の場の理論に固有の性質を理解する上で重要である。 (2)VSFTにおける時間依存古典解の構成と解析 上の(1)と同様、不安定D-braneの崩壊過程を表す時間依存古典解を、このD-braneが消滅した配位周りの理論であるVSFTに基づいて構成/解析したものである。Honte Carloシミュレーション等を用いた解析により、望ましい時間依存性を示す解が存在し得ることを見た。 (3)VSFTの古典解周りのゲージ構造等の諸性質の解析 VSFTをD-braneを表す古典解の周りで展開して、果たして光子に関係したゲージ不変性等の構造が再現されるか、また、開弦の境界条件がどのように実現しうるか、等を調べた。 (4)4次元N=4超対称Yang-Mills理論におけるループ方程式とAdS_5×S^5時空上の弦の場の理論の方程式の関係の研究 4次元N=4超対称Yang-Mills理論は、AdS_5×S^5時空上の超弦理論と等価であると期待されているが(AdS/CFT対応)、(4)の研究はこの等価性の弦の場の理論を用いた証明への第一歩である。具体的には、超対称Yang-Mills理論におけるWilsonループ演算子を弦場と同定し、これが従うループ方程式を弦の場の理論の運動方程式と考えて、後者がAdS_5×S^5時空上の超弦の場の理論の運動方程式とみなせることを示そうという戦略である。この研究は本研究課題では当初予定していなかったものではあるが、その発展課題として今後重要であると期待している。
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