研究概要 |
1.偏極パートン分布関数 レプトン・核子非弾性散乱のスピン非対称性A_1や偏極陽子・陽子散乱のπ中間子生成に関するスピン非対称性の実験結果から、最適縦偏極パートン分布を求める研究を行った。また、得られた偏極パートン分布関数に対する誤差解析をHessian法を用いて行った。その結果JLabのデータは大きいx領域の偏極価クォークの分布を、HERMESとCOMPASSのデータはx=0.1付近の偏極反クォーク分布を特定するために有用であることがわかった。さらに、PHENIXの実験は偏極グルーオンの分布の不定性を半分以下にするために役立つことが判明した。 2.原子核内パートン分布関数 原子核構造関数F_2とDrell-Yan過程の実験データを解析して、原子核内パートン分布の決定をする研究を行った。今回は摂動高次項の影響を入れて解析し、質量数依存性をより正確に再現できるパラメータを導入して解析の向上を図った。得られた分布に対する誤差解析をHessian法を用いて行った結果、価クォーク分布と小さいx領域の反クォーク分布は決定できたが、大きいx領域の反クォーク分布は特定できないことがわかった。また、グルーオン分布は全領域で不定性が大きく、今後の実験が重要であることを示した。さらに、u_vとd_vの原子核補正がNuTeVのsin^2θ_w異常にどの程度影響するか研究した結果、現段階ではNuTeV異常の全てを説明できるほど大きくはなかったが、その原子核補正は特定が困難であり将来的な実験研究が必要であることがわかった。 3.破砕関数 電子・陽電子消滅反応におけるハドロン生成の実験データを解析して破砕関数を求め、それらの関数の不定性を評価した。得られた結果から、グルーオンや軽いクォークの破砕関数の不定性が小さいQ^2領域において大きく、小さいP_r領域のハドロン生成反応を記述する際、考慮する必要があることがわかった。これまで、KKP(Knieh1,Kramer,and Potter)とKretzerの破砕関数が広く使用されてきたが、これら2つの関数は大きく異なることが知られている。我々の解析では、これらの異なる関数は求められた不定性の範囲内にあり、矛盾しないことがわかった。
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