研究概要 |
Σハイペロン生成に対応する(π^-,K^+)包括反応スペクトルを、半古典的歪曲波近似を導入して理論的に計算する定式化を行い、数値計算を行った。従来、原子核内のさまざまな場所で起こる素過程を平均化する近似が用いられていたが、ここでは、反応点における入射パイオン、核子、生成されるK中間子とΣハイペロンの運動量を歪曲波に基づいて求め、運動量が保存するという条件を要求して、各点での寄与を積分するという計算手法を開発した。具体的対象として、最近KEKで行われた1.2GeV/cのパイオンによる^<28>Si,^<58>Ni,^<209>Biを標的とした(π^-,K^+)包括スペクトルを取り上げ、どのようなΣハイペロンの一体ポテンシャルを用いれば実験データーが再現されるかを明らかにした。これまでの解析では、Σハイペロンの一体ポテンシャルの強さが100MeVを超えるほどの斥力であることを示唆するという結果が得られていたが、ここでの計算ではおよそ30MeVから50MeVの斥力であることが明らかになった。中性子の数が多い重い原子核における生成スペクトルを説明するには、少し斥力の強いΣポテンシャルが必要であることも定量的に確かめられ、相互作用のアイソスピン依存性についても実験的な情報が得られた。Σハイペロンの一体ポテンシャルの大きさを確定することは、Σハイペロン-核子間の相互作用の理解にとって不可欠である。私は、バリオン八重項間の相互作用を統一的に記述するSU(6)クォーク模型の作成に関わっているが、ここで得られた結果から示唆されるΣハイペロン-核子間相互作用の特徴はこのクォーク模型の特徴と合致している。このクォーク模型ポテンシャルは、ΛΛ間相互作用に対しても適当な記述を与えることが明らかになっており、現在のところ核子、ΛそしてΣハイペロン間の相互作用を満足のいく形で記述する唯一のものである。
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