研究概要 |
ハイペロン生成に対応する(π^±,K^+)包括反応スペクトルを、半古典的歪曲波近似を導入して理論的に計算する定式化を行った。従来、原子核内で起こる素過程を平均化する近似が用いられていたが、この定式化では、反応点におけるパイオン、核子、K中間子、ハイペロンの運動量が保存するという条件を要求し、各点での寄与を積分するという枠組みを用いる。今年度は、前年度の計算プログラムを拡張し、局所フェルミガス近似ではなく、一粒子波動関数のウィグナー変換を用いる方法に改良した。KEKでの1.2GeV/cパイオンによる^<28>Siなどを標的とした(π^±,K^+)スペクトルの実験データーがよく再現されることを確かめた。Σハイペロンの一体ポテンシャルの強さについては、これまでの解析では100MeVを超えるほどの斥力であることが示唆されていたが、ここでの解析では斥力的な大きさが30〜50MeVほどであるという結論が得られた。このポテンシャルの決定は、バリオン八重項間の相互作用の理解にとって重要である。この解析では、素過程が核媒質中で変化する効果は考えていない。しかし、中間状態に表れるバリオン励起状態の質量と幅が核媒質中で変化していることは十分予想され、最終的には、そのことを考慮した上でハイペロンのポテンシャルの強さを考察する必要がある。ここでの研究は、そのような核媒質効果を定量的に議論できる枠組みの開発と位置づけることができる。この方法は、中間子の光生成への適用も容易であり、K中間子やη中間子の光生成の実験の解析が進行中である。ハイパートリトンのような軽いハイパー核における反応過程と構造の問題と合わせ、バリオン八重項間の相互作用と中間子生成、そして関与するバリオン励起状態とそれに対する核媒質効果の研究を進めている。
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