昨年度まで科学研究費補助金(基盤研究(C)(2)「光円錐上でのハドロンの模型」)を頂いて行った研究の継続とその発展を目指して、今年度は1)核物質中での核子の内部構造変化の研究、および2)光円錐上でのカイラル対称性とその自発的破れの記述の研究、の二つを行った。 1)は東海大学のベンツ助教授、東京工業大学の石井博士、国立台湾大学の峯尾博士、アデレイド大学のトーマス教授たちとの共同研究で、南部・ジョナ-ラジニオ(NJL)模型に基づく核子の相対論的クォーク模型を用い、媒質の効果をスカラーおよびベクトルポテンシャルで表すことにより、核物質中における核子の構造関数の変化を調べ、EMC効果として知られている実験データと比較して、定性的な理解が得られることを示した。この研究については、9月初旬にサラマンカ大学でヘルナンデス教授とも議論した。結果は欧文誌Nuclear Physicsに投稿し掲載が決定している。 2)は東京大学の太田教授、エルランゲン大学のレンツ教授、ティース教授との共同研究で、通常、真空の構造変化によるとされるカイラル対称性の自発的破れを、真空が変化しない光円錐上での定式化でどのように記述できるかを考察し、上記のNJL模型を例として、カイラル変換と南部・ゴールドストーン粒子であるパイオンの生成演算子との関係を明らかにした。この研究は主として8月のエルランゲン大学滞在中に行った。結果は欧文誌Physical Review Dに投稿する予定である。
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