本研究では、銀河団中における高温プラズマの諸性質を理論的に考察することが目的であった。 平成15年度は、はじめに銀河団中の電子プラズマが宇宙背景放射(CMB)と逆コンプトン散乱を起こすことによって銀河団方向のCMBの温度が変化する効果(Sunyaev-Zeldovich(SZ)効果と呼ばれる)に対する研究を行った。我々は、非常に高温の銀河団に適用可能なSZ効果の理論的表式を与えた。また、この結果をまとめ、欧州学会誌(Astronomy & Astrophysics)に掲載された。また、銀河団中の高温プラズマにおける熱制動輻射過程に対する研究も推進した。特に、電子-電子による熱制動輻射過程に対する相対論的熱制動輻射率の定式化を行った。平成15年度中にファイマンダイアグラムのトレース計算を終了し、散乱断面積に対する解析的表式を導出した。 平成16年度は、銀河団中の高温プラズマにおける熱制動輻射過程に対する研究を引き続き行った。はじめに、電子-電子による熱制動輻射過程に対する相対論的熱制動輻射率の定式化を行った。この過程に対する散乱断面積の表式は量子電磁力学の2次の摂動計算によって解析的に求めることができる。我々は散乱断面積の数式処理計算を行い、輻射率に関する表式を求めた。さらに、この輻射率の表式に対する数値計算を行い、これまでに他のグループによって求められている数値結果との比較を行い、両者が完全に一致することを確かめた。 平成17年度は、これまでおこなってきたSZ効果に対する研究をさらに発展させた。特に、観測者(地球)がCMB系に対して運動していることが分かっており、この観測者の運動の効果をとり入れたSZ効果に対する理論式を求めた。この結果を欧州学会誌(Astronomy & Astrophysics)に投稿し、論文は掲載された。また、銀河団が運動している場合の運動学的SZ効果に対するより高精度の計算も行った。この結果は現在、欧州学会誌に投稿中である。
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