超弦理論は、重力を含む素粒子の相互作用の統一理論として有望視されているが、物理的予言を引き出すためには非摂動効果の理解が不可欠である。行列模型は、超弦理論の非摂動効果に重要な役割をはたすD-ブレーンと密接な関係を有し、超弦理論自体の非摂動論的定式化の可能性を持つ興味深いアプローチである。行列模型において、時空とゲージ場は、行列自由度の中に統一され、時空は行列によって表現される。 非可換等質空間は、その具体例となっており、空間の対称性に対応した商空間として群論的に構成される。行列模型においては、マイアーズ項を導入して古典的に構成可能であり、量子論的に実現される可能性も2ループレベルで見出された。行列模型を、非可換等質空間を実現する背景場の周りに展開すると、非可換等質空間上のゲージ理論が実現される。臨界超弦理論に対応する行列模型は、超対称性を有するが、この種の行列模型を用いて構成された非可換等質空間上のゲージ理論は、ソフトな破れを除いて超対称性を非摂動論的に保つ点で非常に興味深い。 非可換等質空間上のゲージ理論におけるゲージ不変なオペレーターは、Wilson lineと呼ばれるが、それは理論の基本的変数である行列の多項式のトレースを取ったものである。Wilson lineの相関関数を計算することは、非可換時空の幾何学的性質や、重力的自由度の理解に不可欠である。実際AdS/CFT対応と呼ばれる考え方によれば、重力理論は、ゲージ理論の双対的な記述という、量子論的レベルで実現される。非可換等質空間上のゲージ理論においても、重力的自由度の理解には、AdS/CFT対応が有用な指針を与えると予想されるが、超重力子に対応するオペレーターの相関関数の研究によって、その超重力理論的記述法を同定した。
|