ミューオンの異常磁気能率(g-2)への量子電磁力学からの8次摂動の寄与を求めた。8次では全部で469個のファイマン図形からの寄与がある。このうち289個の図形については、極限を取って低次のファイマン図形に帰着させ、計算の整合性を検証することができる。数値計算のプログラムも比較的短い。それに反して、残りの180図形は光光散乱の過程を含み、プログラムは長大となる。今回はこの180図形について、既存計算とは別の方法を用いて数値計算を行い、結果を比較することで計算の検証を行い、数値の精度の向上を目指したものである。 既存計算では、ワード高橋恒等式を用いて関連する図形をまとめて計算している。これとはまったく独立の手法を採用するため、図形の頂点関数を直接計算することにした。プログラムミスをなくすため、図形の基本情報を入力する簡単なテンプレートファイルから、コードがコンピュータで生成されるようにした。また、繰り込み項や紫外発散の項の生成方法も、既存計算とは別な方法で作成した。 出来上がったコードをワークステーション上で走らせチェックした後、スーパーコンピュータに移植し、数値計算の精度を上げることを図った。結果、一部の図形で既存計算の結果との間に有意な差が生じた。詳細な探査の結果、既存計算の方法ではけた落ちの影響が深刻で、それが計算結果に影響し、差が生じていることが判明した。そのため、既存計算を再度、精度を上げて実行させたところ、有意差は解消し、両者はよく一致した。 これらの光光散乱の結果とほかの図形の結果を合わせ、8次の寄与として、132.6823(72)を得た。これは、前の報告より2桁近く精度が上がっている。ミューオンg-2の標準模型による計算のうち、量子電磁気学による寄与については、今回の報告をもってして、確定したといえるだろう。
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