今年度の目標は、異常磁気能率の摂動計算10次の計算方法を確立することである。まず、10次の電子異常磁気能率に寄与するファイマン図形、全12672個をゲージ不変な6つのグループに分け、そのグループごとで計算を進めることを目指した。ミューオン粒子異常磁気能率には上の6つのグループのうち、フェルミオンループを含むファイマン図形からなる5グループだけが寄与する。特にループとしてフェルミオン真空偏極を含む図形は、これまでの低次摂動計算に用いたプログラムをわずかに変更するだけで得られる。これらの図形は、その主要な寄与が繰り込み群を使ってすでに解析的に得られている。私たちの計算結果はこの結果とよくあっており、その差は繰り込み群では得られない有限差として十分に理解可能な範囲にある。 10次ではじめて出現するタイプの図形として、ミューオンと電子のループの間に5個の光子を交換するタイプのものがある。この5個のうち4個までがクーロン光子になり残り1個が磁気的になる非相対論的な領域でミューオンと電子が仮の束縛状態をつくると考えられている。その結果、この図形の寄与は他に比べて非常に大きく、解析的には(α/π)^5の係数として185程度と大きな値が予想されており、最大の誤差の元となっていた。しかし、私たちの計算結果によると、その値は100程度で予想値よりかなり小さいことがわかった。 またフェルミオンループを全く含まない図形については、数値計算プログラムの自動生成を行うプロジェクトが進行中である。今のところ、摂動の次数を指定した場合のファイマン図形の勘定、各々の図形に関する紫外発散の構造の特定と繰り込み項の構成、図形のトポロジーを特徴付ける関数の生成までが任意の次数で行えるようになっている。これを用いて、8次電子異常磁気能率の計算のチェックを行い、さらに10次ミューオンの計算に利用する予定である。
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