本研究では量子リング中の電子構造を軸として、そのスピントランジスタへの応用などについても研究を行った。様々なサイズや配置の量子リング構造を電子線リソグラフィーと化学エッチングにより作成した。作成した2種類の量子リング構造、(1)単一量子リング構造、(2)量子リング配列構造を用いて量子リング内の電子状態を調べた。 量子リング構造の特徴的な信号であるAharonov-Bohm振動が出来るだけ高温において観測できる様に可能な限り小さな単一量子リング構造を作成し測定に成功した。このような量子リング構造を用いてテラヘルツ光領域での吸収と光伝導測定から電子状態を調べることを試みた。周波数領域35-140GHzのマイクロ波引加下での光伝導測定を磁場引加下で測定し、量子リングのサイズにのみ依存した新しい抵抗増大ピークを観測することができた。このピークが電子のサイクロトロン軌道がリング半径と一致した磁場位置に現われていることがサイズの異なるリング構造の実験より確認できており、リング内に局在した電子によるマイクロ波吸収に関係していると特定できた。このことより次の新しい知見を得ることができた。 a)量子リング構造により入射フォトンの効率的な吸収が可能。 b)量子リング中局在電子とリングを過る伝導電子の間の相互作用の観測。 また、量子リング構造のスピントロニクスへの応用の可能性に関して、最適な材料を見い出すことを試みた。これらヘテロ構造の遠赤外磁気光吸収測定とマイクロ波変調Shubnikov-deHaas振動測定よりゼロ磁場下でのスピン分離エネルギーを測定することができた。これより量子リング構造のスピントランジスタ応用には現時点ではInGaAs/InAlAsが適していると言う結論を得た。
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