研究概要 |
共鳴光学応答において非共鳴分極の効果は一般に無視できないだけでなく条件次第ではキャビティモードの形成を通して第一義的な重要性を持ち得る。そこで共鳴光学過程を(非共鳴分極が作るQ値有限の)キャビティ電磁場と共鳴分極との相互作用という一般形に定式化し、その応用を行った。キャビティの電磁場に繰り込む誘起分極としては線形分極の非共鳴成分だけでなく共鳴成分も可能で、それぞれの場合に残る分極との相互作用を考慮して完全な光学応答を求める電磁場グリーン関数の方法を与えた。共鳴成分の繰り込みでは感受率の非局所性によりグリーン関数が解析的に求められる。実用計算にも有効な1次元キャビティの場合から、さらに2,3次元キャビティヘの形式的拡張も行ったが、これにより共鳴2次光学過程における「サイズ・形状に依存した輻射寿命効果」を議論することができるようになった。応用の第1として、半導体多層膜キャビティ中の量子井戸に沿って表面音響波(SAW)を印加したときのBragg回折を含む反射・散乱スペクトルの計算を行った。感受率のSAW誘起共鳴変調だけでなく観測量もスペクトルの共鳴成分であることから、弱い変調に対して大きな応答変化が現れる。第2の応用として、面内周期性を加えた多層膜キャビティポラリトン系のフォトニックバンドを計算する方法を開発し、ラビ分裂の実効的増大条件を調べている。また、フォトニックバンドの光学応答を計算する際に必要な「振動数を与えて可能な(複素)波数を求める」方法を定式化し、応用例によってスペクトル計算精度の向上を確認した。 このほかにも、共鳴Bragg反射器のサイズに依存したスペクトルの相転移的変遷に対する新しい解釈、既に提唱してあった薄膜励起子のサイズ依存輻射シフトの実験的検証、非線形感受率の計算における相殺問題の新しい理論的方法、球形殻状キャビティにおける励起子応答,螺旋形格子上の励起子の線形・非線型応答,また光の量子論と半古典論によるキャビティ中2準位系の非線形応答の異同条件,等の研究を行った.
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