低次元強相関電子系の荷電キャリヤは特異な性質を持つ。「研究計画」で述べたように、低次元強相関電子系における、光生成された正負の電荷が異なるサイト間のクーロン相互作用により結合した状態の性質について明らかにするために、低次元強相関電子系において、電荷の結合効果が光吸収スペクトルや自由誘導減衰におよぼす効果を研究した。異なるサイト間のクーロン相互作用を取り入れた、1、2次元強相関拡張ハバードモデルを用いて、half-filledの場合の光吸収スペクトルと自由誘導減衰を数値厳密対角法により計算し、これらの物理量に対して、電子相関および電荷結合がもたらす効果の解析を行った。光吸収スペクトルの特徴を理解するために、光吸収スペクトルの主な構造に寄与するエネルギー固有状態を求め、その電荷相関関数、スピン相関関数を計算し、以下の結果を得た。 まず2次元系について述べる。異なるサイト間のクーロン相互作用が強い場合には、光吸収スペクトルの低エネルギー領域に独占的なピークが現れる。このピークは正負の電荷が結合した状態への励起に由来しているが、通常の半導体におけるエキシトン状態とは対照的に、たくさんのエネルギー固有状態がこのピークに寄与している。これらの状態はほぼ同じ電荷構造を持っているが、スピン構造は異なっており、多数の電荷結合状態の存在はスピン自由度に由来している。1次元系においても、2次元系と同様に異なるサイト間のクーロン相互作用が強い場合に低エネルギー領域に独占的なピークが現れる。しかし、2次元系とは対照的に、たった一つのエネルギー固有状態が光学遷移モーメントをほぼ独占している。とれらの光吸収スペクトルにおける1次元系と2次元系の本質的な違いはスピンと電荷自由度の結合の違いから生じており、これは4光波混合によるダイナミックスの解析により実験的に検証可能となる。
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