研究概要 |
レーザ光を非線型結晶に入射するとパラメトリック下方変換により2つの光子が放出され、この2つの光子は強い量子相関を持っている。この双子の光子で結晶を励起するとその励起状態は通常の2光子励起とはかなり異なったものになると予想される。 我々は励起子発光を伴う結晶TlX(Cl,Br,I)を用いて実験を行ってゆく。まず予備実験として、沃素を微量に添加したTlBr(I)結晶の直接励起子領域および間接励起子領域を波長可変ナノ秒Ti:Sレーザ(パルス巾10ns)で1光子および2光子励起し、その発光スペクトル、発光帯の時間減衰等の温度依存性を詳細に調べた。TlBr(I)結晶の間接自由子は非常に不安定で4K以上の温度で電子-ホール対に分離することが分かった。また、発光の緩和過程は2Kと10K以上とではかなり異なることも分かった。次に、フェムト秒Ti:Sレーザ(800nm,繰り返し80MHz)で1光子および2光子励起しTlBr(I)結晶の発光スペクトルを測定した。その結果、ナノ秒励起下でのものとほぼ同じスペクトルが得られたが、いくつかの発光帯の相対強度はナノ秒励起下でのものとは異なっていることが分かった。 並行して、フェムト秒Ti:Sレーザ(800nm,繰り返し50MHz)光を色素レーザのシード光としてアンプ(繰り返し1KHz)を作り、シード光の約10倍のレーザ光を得た。これにより、ナノ秒Ti:Sレーザでは正確に測定できなかった早い減衰時間を持つ発光帯を詳細に調べることが可能となった。この光源を用いてサブナノ秒領域での実験を進め、通常の2光子励起下での発光スペクトルやその時間減衰特性の解析を行うことによりTlBr(I)結晶中の励起子の性質を知ることができる。 また現在、フェムト秒Ti:Sレーザ(800nm,繰り返し80MHz)の2倍波でBBO結晶を励起し、パラメトリック発振させる準備を行っているが、まだもつれた(エンタングル状態の)2光子を発生させるに到っていない。今後、このレーザ製作の経験をもとに色素アンプレーザで強いパラメトリック発振光を得て、サブナノ秒領域での実験を進める。
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