研究概要 |
量子常誘電体チタン酸ストロンチウムSrTiO_3において紫外レーザー光に誘起された局所的構造変化・欠陥生成とフォトメモリー現象を発見した.併せて,このSrTiO_3に見られる2.4eV可視光発光の起源と新らたに3.2eV,2.9eV紫外発光を発見した.これらの概要は以下のとおりである. (1)SrTiO_3の紫外レーザー光に誘起された局所的構造変化・欠陥生成とフォトメモリー現象の研究 真空中でSrTiO_3結晶に325nm紫外レーザー光を照射しながらフォトルミネッセンススペクトルを観測していると,2.4eV発光の強度が時間とともに大きく増加する.この増強した発光状態は,レーザー光を当てなければ,室内灯下で空気中でも長い期間にわたって保存される(フォトメモリーに対応).そして,この増強した発光状態は再び酸素中や空気中でレーザー光を照射すると元の状態に戻る(メモリーされた光情報の消去に対応). (2)SrTiO_3のフォトルミネッセンスの研究 SrTiO_3は量子常誘電体と知られ,2.4eV発光はこの量子常誘電性と密接に関連した真性自己束縛励起子によるものとして信じられてきた.SrTiO_3結晶はベルヌイ法で濃青色のas-grown結晶として育成され,それを還元雰囲気の高温中でアニール・脱色して無色透明結晶として研究者に提供されてきた.我々の研究では,as-grown結晶から無色透明結晶について,フォトルミネッセンス特性を種々の測定法によりきわめて詳細に研究した.その結果,以下の事柄が明らかになり,従来多くの研究者に信じられてきたSrTiO_3のフォトルミネッセンスについての見解に訂正を加えた. ●2.4eV発光は結晶欠陥を起源とする発光で,量子常誘電性とは無関係な外来型発光である. ●新たに発見した3.2eV発光と2.9eV発光はやはり欠陥に誘起された間接励起子の輻射消滅に伴う発光か,局在中心の光励起状態の消滅に伴う発光である. ●よく研究者が購入して試料として使用する無色透明結晶にはas-grown結晶の欠陥構造,化学的組成のヘテロ構造が痕跡としてあり,これが発光の原因となっている.
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