本年度、我々はセリウム六ホウ化物希釈系の電子の基底状態を明らかにするため、電気抵抗率の温度変化、磁場変化を測定した。測定は希釈冷凍機を用い、温度範囲350mKから約60mK、磁場範囲OT-16T、セリウム濃度範囲10%から100%で行った。セリウム六ホウ化物希釈系においては低磁場、低セリウム濃度領域では長距離秩序が発生せず、無秩序相をとる。この無秩序相では電気抵抗は温度の二乗に比例した温度変化を示さず、非フェルミ液体的な振る舞いを示すことがわかった。一方、セリウム六ホウ化物希釈系ではセリウム濃度を高くしてゆくと、セリウム濃度が60%程度のところで量子相転移を起こし、高濃度側で長距離秩序が発生する。長距離秩序が発生した領域において、電気抵抗は温度の二乗にたいして線型な温度変化を示し、フェルミ液体の特徴を示す。また、高い磁場を印加すると、電気抵抗はセリウム濃度によらず、フェルミ液体の振る舞いを示すことが明らかになった。高磁場側でセリウム濃度によらずフェルミ液体が実現していることは、dHvA効果の測定でも確かめられた。本研究によりセリウム六ホウ化物希釈系では非フェルミ液体は量子転移点近傍だけでなく、広いセリウム濃度の範囲で実現していることが明らかになった。このことはセリウム六ホウ化物希釈系の非フェルミ液体形成の機構が量子臨界現象ではないことを意味している。非フェルミ液体形成の原因として、4f電子が磁気双極子と電気四重極子の両方を持っているため、4f電子の局在モーメントが伝導電子によって完全に遮蔽されず、局在モーメントの揺らぎが存在している可能性があることがわかった。
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