研究概要 |
1.非磁性細線Nと強磁性細線F1とF2からなる複合ナノ構造におけるスピン注入と検出の理論的研究を行った.バイアス電流をF1からF1/N接合を通ってNの左側に流すと,スピンが拡散して右側のN電極中にスピン蓄積を生じる.このスピン蓄積の大きさは,F2の磁化を変えたときに生じる余分な電圧(スピン・シグナル)として検出される.スピンに依存したボルツマン輸送方程式を解くことにより,N電極のスピン蓄積,スピン流,およびスピン・シグナルを求めた.スピン・シグナルの物質依存性(貴金属や超伝導体),界面ポテンシャル依存性(トンネル接合か金属接触か),強磁性細線間の距離依存性,および温度依存性を調べた結果,以下のことが明らかになった.(1)両方の接合をトンネル接合にするとスピン・シグナルが最も大きくなる.(2)F2/N界面は金属接触とし,かつF2としてスピン拡散長が非常に短い強磁性金属(NiFe合金など)を用いると,NからF2へ流れ込むスピン流が増大する.さらに,素子構造の形状を正確に取り入れた有限要素法解析を行った。その結果,トンネル接合では上記の解析結果を再現するのに対して,金属接触接合では界面電流の著しい不均一化が生じ,スピン・シグナルに大きな影響を与えることが分かった. 2.ハーフ・メタル量子細線と超伝導体からなる複合ナノ構造における非局所アンドレーエフ反射の研究を行った.平行で隣接する2つのハーフ・メタル量子細線を超伝導体にナノ点接触させたとき,磁化が平行な場合はアンドレーエフ反射が禁止されるが,磁化が反平行な場合は交差アンドレーエフ反射が生じる。このとき,交差アンドレーエフ反射が起こる特徴的スケールは,超伝導のクーパー対の大きさ(コヒーレンス長)ではなく、電子的およびホール的準粒子のフェルミ波長で決まることが明らかになった.
|