研究概要 |
ダイマー分子構造を有するκ型BEDT-TTF系有機超伝導体は,有効的に1/2充填バンド構造を有するため強相関な電子状態が実現している.物理的圧力印加や分子置換による化学圧力変化によってバンド幅を制御することができ,モット絶縁体から強相関金属状態へモット転移を経て転移させることが可能である.今年度の本研究ではアニオン分子の化学置換によりモット絶縁体-反強磁性絶緑体,強相関金属超伝導の2種類の単結晶を合成し,これらの赤外反射スペクトルの詳細な温度依存性を測定することで,バンド幅制御型強相関モット系有機伝導体の電子状態とその間の相転移を調べた.本研究では特にBEDT-TTF分子中心炭素-炭素2重結合の対称伸縮モードが強い電子-分子振動結合効果により赤外反射スペクトルに現れ,かつこのモードの周波数シフトが系の電子状態,とりわけ中赤外領域に現れるバンド間遷移の強度と密接な相関があることが明らかになった.この知見よりこの分子振動モードの周波数変化を測定することで,電子状態変化を知ることができ,詳細な温度依存性の測定が可能となった.このような分子振動モードの温度変化の測定から,相関の弱い側に位置する超伝導になる物質では,高温でのインコヒーレントな悪い金属状態から特徴的温度T以下でコヒーレントな良い金属状態に変化し,この良い金属状態から超伝導に転移することがわかった.また相関の強い側に位置する物質では高温の悪い金属状態は同じであるが,そこからT_<ins>でモット絶緑体になりさらに低温のT_Nで反強磁性絶縁体になることがわかった.また超伝導-反強磁性絶縁体の間は1次のモット転移であるが,この転線はより高温までのびモット絶縁体-良い金属の間も1次転移線で連続的に分かち,悪い金属に到達するところで臨界点として終端していることが明らかになった.
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