ペロブスカイト型コバルト酸化物の圧力誘起金属・絶緑体転移

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15540336
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 小林 義明 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 講師 (60262846)
• 研究分担者: 安井 幸夫 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 助手 (80345850) ; 佐藤 正俊 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (40092225)
• キーワード: Pr_<1-x>Ca_xCoO_3 / 金属-絶縁体転移 / スピン状態の変化 / ホールドーピング / Na_xCoO_2・yH_2O / 核磁気共鳴 / ナイトシフト / 核磁気緩和率

研究概要

CoO_6八面体を基にしたコバルト酸化物では、強磁性、反強磁性、そして超伝導が様々な物質で見いだされている。それらの電子状態の研究と通してCoの電子状態の制御の手法を探ることが大きなテーマである。まず第一にペロブスカイト型コバルト酸化物Pr_<1-x>Ca_xCoO_3を対象に、この系における圧力誘起金属-絶縁体転移のメカニズムを調べる研究を行った。第二はCoの2次元三角格子持つ新しい超伝導体Na_xCoO_2・yH_2Oの超伝導電子対の対称性に関する研究である。
第一について我々はPr_<1-x>Ca_xCoO_3の広いx領域で生じる圧力誘起相転移が常圧でのx=0.5のまわりの狭い領域でのみ見られる転移と同じ原因であることを示した。Prをイオン半径のより小さいランタノイドR'で置換した場合も常圧で広いx領域で生じることも合わせて考慮すると、この相転移が秩序-無秩序転移とは考えにくいと考えられる。さらに詳しい情報を得るため、粉末中性子、X線Rietveld解析を行ったところ、この転移がCoO_6八面体のtilting角の増大を示すものであることがわかり、低スピン状態が安定するためには、Co-Co間の重なり積分tが重要な役割を果たしていることがわかった。またx,圧力値p, PrをR'に置換する割合y等のパラメータやR'イオンの種類によってCoを囲む局所構造がどのように変化するかがわかり、今後の電子状態制御の手立てを知ることが出来た。
第二についてはCoの三角格子に期待される磁気フラストレーションによる磁気ゆらぎの増大が、超伝導の発現に対して銅酸化物高温超伝導体の場合と同様に、重要な意味を持つのかどうか、さらには低スピン状態から軌道励起状態への軌道ゆらぎを介した超伝導が考えられるのか、等を明らかにするため、超伝導電子対の対称性を定める実験を行った。すなわち核磁気共鳴(NMR)ナイトシフト、核磁気緩和率、さらにCoサイトへの不純物ドーピング効果の研究である。超伝導のクーパー対はsinglet状態にあることがナイトシフトの温度変化から示された。核磁気緩和率の温度変化にコヒーレントピークがないか極めて小さいと見なせることから、この系では偶パリティのクーパー対をもつ異方的超伝導状態をとっている可能性があるが、超伝導転移温度T_cへの不純物効果はs波の等方的超伝導の可能性をも示唆している。

研究成果

• [文献書誌] H.Masuda, T.Fujita, T.Miyashita, M.Soda, Y.Yasui, Y.Kobayashi, M.Sato: "Transport and Magnetic Properties of R_<1-x>A_xCoO_3 (R=La, Pr and Nd ; A=Ba, Sr and Ca)"Journal of the Physical Society of Japan. 72・4. 873-878 (2003)
• [文献書誌] T.Miyashita, Y.Kobayashi, T.Fukamachi, M.Sato: "Spin-state change of Co atoms of La_4Co_3O_<10+δ>"Physics B. 329-333. 740-742 (2003)
• [文献書誌] Y.Kobayashi, H.Masuda, T.Miyashita, M.Sato, M.Itoh, I.Terasaki: "NMR studies of Co-oxides with large thermoelectric performance"Physics B. 329-333. 926-927 (2003)
• [文献書誌] M.Soda, Y.Yasui, T.Fujita, T.Miyashita, M.Sato, K.Kakurai: "Magnetic Structures of High Temperature Phase of TbBaCo_2O_<5.5>"Journal of the Physical Society of Japan. 72・7. 1729-1734 (2003)
• [文献書誌] Y.Kobayashi, M.Yokoi, M.Sato: "^<59>Co NQR Study on Superconducting Na_xCoO_2・yH_2O"Journal of the Physical Society of Japan. 72・9. 2161-2164 (2003)
• [文献書誌] Y.Kobayashi, M.Yokoi, M.Sato: "^<59>Co-NMR Knight Shift of Superconducting Na_xCoO_2・yH_2O"Journal of the Physical Society of Japan. 72・10. 2453-2455 (2003)
• [文献書誌] Y.Yasui et al.: "Ferromagnetic Transition of Pyrochlore Compound Tb_2Ti_2O_7"Journal of the Physical Society of Japan. 72・11. 3014-3015 (2003)
• [文献書誌] M.Soda et al.: "Magnetic Structures and Spin States of NdBaCoO_5"Journal of the Physical Society of Japan. 73・2. 464-468 (2004)
• [文献書誌] K.Tsuchida et al.: "Ru-NMR Studies and Specific Heat Measurements of Bi_3Ru_3O_<11> and La_4Ru_6O_<19>"Journal of the Physical Society of Japan. 73・3. 698-702 (2004)
• [文献書誌] M.Ito et al.: "Studies on Magnetic Excitation Spectra of High-T_c Superconductors"Journal of the Physical Society of Japan. 73・4(in press). (2004)
• [文献書誌] S.Iikubo et al.: "Magnetic Structure of Cu_<0.3>Zn_<0.7>Cr_2Se_4"Journal of the Physical Society of Japan. 73・4(in press). (2004)
• [文献書誌] M.Yokoi et al.: "Impurity Effects on the Superconducting Transition Temperature of Na_xCoO_2・yH_2O"Journal of the Physical Society of Japan. 73・5(in press). (2004)