研究概要 |
昨年度に引き続き,スピン密度波(SDW=spin-density wave)型磁気構造を示す典型物質である金属Crの磁気構造を,界面効果を利用して制御する研究を進めた.バルク状態のCrの磁気構造は,磁気モーメントの方向が体心立方格子(001)原子面内で平行,隣り合う(001)面間で反平行で,かつその大きさがナノオーダーで正弦波的に変調したいわゆる「格子不整合型SDW構造」となっている.このような磁気構造をもつCrの(001)配向薄膜の原子層を周期的に非磁性金属単原子層で置き換えることによって,正弦波的磁気変調の「節」または「腹」を置換原子との界面位置にピン止めし,スピン構造を制御することができるものと期待される.今年度は,スピン構造の置換金属元素依存性に関する研究を重点的かつ系統的に推進した.具体的には,体心立方(001)配向Cr薄膜内のCr原子層を周期的にX元素単原子層(X=Sn, Au, Ag, V)と置換した構造をもつCr(001)/X人工格子を超高真空交互蒸着法によって作製し,中性子回折法とメスバウアー分光法を用いてそれらの磁気構造を調べた.その結果,X単原子層に挟まれたCr層の厚さが16.0nmの試料では,すべてのXに対して低温でスピン密度波型磁気構造が安定化されることが明らかになった.さらに,スピン密度波の波形がXの種類に依存して変化することが明確に示され,元素選択によりスピン密度波が制御できることが示された.前年度のCr/Sn人工格子の磁気構造の結晶方向依存性の研究と併せ,スピン密度波型磁気構造を人工的ナノ変調構造の導入によって制御していくことが可能であることが証明された.
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