平成15年度の研究実績は2つに大別される。まず、磁易誘起超伝導-絶縁体転移関連の問題について、グレイン構造のない均質な超伝導体における磁場中量子揺らぎに関する今年度論文公表した理論を踏まえ、乱れた超伝導薄膜において実験的に繰り返し報告された絶対零度極限での金属相の存在を示唆する抵抗現象が、グレインからなる不均質な構造に起因するか否かを検討した。これは、乱れたグレイン構造が生みだす位相グラス相での抵抗が量子極限で有限になるという、海外で提案された不思議な理論的予想を検討する形で行われ、通常の超伝導揺らぎと位相グラス秩序間のカップリングを正しく考慮すればこのグラス相は通常期待する通りゼロ抵抗の超伝導相になることがわかった。この成果の投稿用原稿は現在執筆中だが、プレプリントとしてcond-mat/0307563に公開されている。この結果、量子金属中間相を示唆する抵抗現象は絶対零度における相図を反映した現象ではない可能性が高くなった。 これとは別に、FFLO渦糸状態の可能性と実験事実との比較を行なった。これはCeCoIn5という重い電子系超伝導体において2年ほど前に発見された低温での不連続なHc2転移現象に端を発する研究で、今年度初めにFFLO渦糸状態への2次転移が新たにこの物質において複数の実験により発見されたことから、急遽重点を置いて研究した。FFLO状態は十分低温で重要なパウリ常磁性効果により正常相と通常の渦糸固体間に位置するので量子中間相のひとつとみなせる。Hc21次転移現象とFFLO渦糸状態への2次転移が同時にみられたのはCeCoIn5が初めてであり、有機超伝導体での対応する現象とは一見異なっていたため、これらを包括的に説明するパウリ常磁性の強い磁場中超伝導の理論が必要となった。今回、その理論定式化に成功し、論文にて発表した。
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