本研究課題では、低温で量子多体系に現れる中間相、の範疇に属する複数の物理系を理論的に研究してきた。今年度の成果に含まれる題材を列挙すると、1)エアロジェル中の超流動ヘリウム3のA-like相の理論的同定 2)乱れたグラニュラー超伝導体における量子金属相の可能性の検討 3)FFLO超伝導渦糸状態への揺らぎの効果の検討、である。1)はタイムリーな題材であり、今年度最も時間を割いて研究活動を行った。エアロジェル中の液体ヘリウム3は、乱れたポテンシャル中のフェルミ粒子多体系の一例であり、乱れによりバルク液体ヘリウム3のA相の超流動対状態や超流動長距離秩序が乱れにより変更を受ける可能性を検討した。自由エネルギーの微視的な調査により、エアロジェルが大局的な異方性を持たない限り、A-like相のスピン3重項対状態はA相の場合と同じであるが、乱れが弱ければA-like相は準長距離秩序を持ち超流動応答を保持した超流動グラス相であることを示した。一方、エアロジェルに1軸伸張を加えて異方性を持たせれば、ポーラー対状態が3次元的に実現できることを示した。これらの成果は、米国雑誌において2本の論文で発表された。2)は、この研究課題当初から掲げてある題材で、超伝導-絶縁体転移現象を示す乱れ及び量子揺らぎの強い超伝導体の量子極限(低温極限)において「実験的に示唆される金属(ボーズメタル)中間相が乱れたグラニュラー超伝導体においてはゲージグラス相に相当する」という最近の提案は、量子散逸の無視できない有限温度での電気抵抗結果からは正当化できないことを示し、今年度後半に論文にまとめ投稿した。3)は、重い電子系超伝導体CeCoIn5における高磁場正常相-FFLO相間の1次転移が渦糸の存在を無視するパウリ極限を仮定したモデルにおける揺らぎによる1次転移だとする、私のグループの理論と抵触する提案が、渦糸を考慮するもっと一般的な理論が与える相転移現象とは定性的に異なることを理論的に指摘したもので、渦糸状態としてのFFLO状態の記述が不可欠であるという我々の理論を補強する意義を持ち、米国雑誌にて発表された。
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