本テーマの目的は、ダイヤモンドアンビルセル中での磁気測定の感度と精度を、われわれが開発したSQUID振動コイル磁束計を基にして、さらに向上させることである。 1.ノイズの低減:検出コイルのリード線の不規則な振動を押さえるためにリード線の取付治具を改良し、SN比の良い信号が安定して得られるようになった。 2.アンビルの機械的固定:アンビルに圧入した小型リングを用いてアンビルをピストンに機械的に固定する方法を開発した。非常にコンパクトに固定できるので、検出コイルやガスケットの取付に支障が起きにくい。通常行われているエポキシ樹脂による固定で問題になる磁気的バックグラウンドが解消され、さらに、アンビルの脱着を短時間に行うことが可能になった。 3.複合ガスケット:一般に磁気測定には銅ベリリウムの非磁性ガスケットが使われるが、圧力上限は10GPa付近にある。磁性は銅ベリリウムより大きいが強度の高いNiCrAl合金をアンビルの先端部分が当たる部分のみに使い、これを支えるガードルを銅ベリリウムで構成した複合ガスケットを開発した。30GPaで30ミクロン以上の厚さを確保できることがわかり(銅ベリリウムでは10ミクロン以下)、磁気的には銅ベリリウム程度に非磁性で、強度的にはNiCrAlと同等のガスケットが得られた。 4.30GPaまでの精密磁気測定:開発した成果を使って、これまで困難であった30GPaまでの磁性の圧力変化を調べる実験をCs_2CuF_4の試料で行った。その結果、21GPa付近で2次元面内の強磁性の消失を初めて観測し、また、バックグラウンドの大きさや再現性が従来よりも1桁改善されたことを確認した。 以上、バックグラウンドノイズの原因を特定し、改善することが出来た。さらに、精密磁気測定が可能な圧力範囲を10GPaから30GPa付近まで拡大することも出来た。
|