研究概要 |
本年度も引き続き,AlB_2型層状物質MgB_2の超伝導電子状態の特徴を微視的に調べる目的で研究を進めた.これまでの主な成果を述べると,Bハニカム格子の高エネルギー面内振動(〜75meV)と電子の強い相互作用の存在を明らかにし,これによる強結合性(2Δ/κ_BT_C=5-6)は従来の機構では説明できない事を指摘した.また,MgB_2と同じ結晶構造をもつCaAlSiやNbB_2の測定からAlB_2型超伝導体が強結合的であると結論付けた.さらに,これらを原子レベルで調べるため,極低温超高真空走査トンネル顕微鏡/分光システム(STM/STS)による観測を開始した.STMによるMgB_2の表面原子像の観察では,原子配列の周期的な斑点像が観測され,これらが三角格子構造と六方格子構造の2種類のパターンを構成することが判った.三角格子像の隣接斑点間隔は〜0.3nm,六方格子像では最近接斑点間隔〜0.17nmであり,これらはMgB_2のMg面とB面の格子定数とよく一致する.走査トンネル分光(STS)による局所状態密度の測定では,明確な超伝導ギャップ構造が観測された.このギャップ構造は多重ギャップの存在を取り入れた「相関2ギャップモデル」で記述可能である.また,観測された最大ギャップは2Δ=10meVであり,この物質の異常な強結合性の存在を確立した.このようにSTSによる局所電子状態の測定結果は,従来の低温裂開接合トンネル分光の結果と非常に良い一致を示す.また,このギャップ構造の空間依存性を調べたところ,分布はあるものの200nm×200nmの範囲で一様な領域も存在し,銅酸化物高温超伝導体で見られるような表面状態の広範囲にわたる顕著な不均一性は観測されていない.なお,現在,多重ギャップの磁場異方性の詳細を明らかにするための磁場中測定を行っている.
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