磁性強相関電子系において、f軌道を含む化合物の電子構造には相対論的効果が顕著に現れる。ディラックの相対論的一電子方程式を基礎した理論を展開することにより、局在磁性としてのセリウム化合物から遍歴磁性としてのウラン化合物まで幅広く電子構造の計算が適応できるように拡張していくための基礎的研究を本研究では推進する。今年度では、バンド理論の基底関数において結晶場効果を磁性原子の位置で考慮し、軌道に依存した結晶場ポテンシャルを計算する相対論的理論と手法およびプログラム開発を進めた。その際、スピン・軌道相互作用を含めた相対論的効果を摂動論に寄らずに基底関数の中に取り扱う。スピン分極効果と相対論的効果、および結晶場効果による軌道間の結合を含むディラック方程式の数値解法の効率化を行った。 理論の構築に先立ち、フォートラン言語による電子構造、磁気モーメントの大きさと全エネルギーを計算できる電子構造プログラムの開発を進めるために、ワークステーション(Opteron64ビット)とその周辺機器を購入し、その機器の立ち上げとPGIのフォートラン90・コンパイラーのソフトの導入および研究環境の整備を9月までに行った。 今年度の末に磁性Np化合物であるNpFeGa_5とNpNiGa_5の単結晶育成が国内で成功し、その電子構造の理解が急がれていた。相対論的スピン分極LAPW法を用いてその電子構造を常磁性状態、強磁性状態および反強磁性状態で計算を行い、フェルミ面の計算を実行した。フェルミ面から最近観測されたド・ハース-ファン・アルフェン振動数ブランチの解析を行った。その結果を国際ワークショップで講演した。さらに、磁性ウラン化合物の計算結果を論文で発表した。
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