重い原子核を含む化合物の電子構造には相対論的効果が顕著に現れる。局在磁性としてのセリウム化合物から遍歴磁性としてのウラン化合物まで幅広く電子構造の計算が適応できるように、軌道分極効果を考慮したディラックの相対論的一電子方程式を基礎して理論展開し、電子構造や磁気モーメントを計算するプログラムを開発した。 磁性超ウラン化合物であるNp化合物の物性研究が最近世界的に進められている。この理論を用いて電子構造とフェルミ面、およびNpサイトでの磁気モーメントの計算を行った。いくつかのNp化合物の測定が行われているが、今年度は反強磁性体NpCoGa_5とNpRhGa_5のフェルミ面と磁気モーメントの計算を行った。低温状態でNpCoGa_5とNpRhGa_5は[001]方向に磁気モーメントをもつ反強磁性体を示す。ド・ハース-ファン・アルフェン(dHvA)効果の測定において、NpCoGa_5は強磁性状態になり、一方NpRhGa_5は低温での磁気秩序を保っている。フェルミ面は、dHvA効果で測定された磁気秩序状態で計算した。まず、得られた磁気モーメントはこの理論において軌道モーメントがスピンモーメントより大きな値となった。フントの第三法則にしたがい、磁気モーメントとスピンモーメントの向きはそれぞれ反対の方向を向いているので、Npサイトの全磁気モーメントは小さな値となり、中性子散乱実験で観測された値と一致する。次に、dHvA効果で測定された振動数のブランチは計算から得られたフェルミ面からその起源を明らかにすることができ、特に、NpRhGa_5については実験と理論の一致は非常によい。 これらの結果から、基底状態において磁性Np化合物の5f電子は遍歴磁性として振舞っていることを明らかにすることができ、この理論の有効性と今後の超ウラン化合物の理論研究に対する知見を得ることができた。
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