研究課題/領域番号 |
15540354
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
米満 賢治 分子科学研究所, 理論分子科学研究系, 助教授 (60270823)
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研究分担者 |
山下 靖文 分子科学研究所, 理論分子科学研究系, 助手 (50390646)
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キーワード | 有機電荷移動錯体 / イオン性中性相転移 / 光誘起相転移 / コヒーレントフォノン / 量子常誘電体 / バレット公式 / 量子BEGモデル / 逆スピンパイエルス転移 |
研究概要 |
交互積層型電荷移動錯体TTF-CAの光誘起相転移についてこれまで1次元モデルでダイナミクスを計算してきた。しかし、現実の物質には鎖間相互作用がある。イオン性相での鎖間引力は相図や格子定数の挙動に本質的な役割を果たしている。そこで鎖間相互作用を取り入れた拡張パイエルス・ハバードモデルの時間依存シュレディンガー方程式を解いて、相転移ダイナミクスを調べなおした。イオン性相を照射すると電荷移動が励起光密度に対して閾値を示すのに対し、中性相を照射すると線型挙動を示すことは、孤立鎖と同様であった。前者ではモット絶縁体における電子相関のためになかなか動き出せない電子が閾値を越えて一斉に動く。後者ではバンド絶縁体における電子の運動が個別的で協調性を持たない。鎖間相互作用の大きさによって光誘起イオン性中性相転移の動的挙動が大きく異なることもわかった。弱結合の場合、それぞれの鎖が初期格子揺らぎに依存して異なる光密度で相転移を開始するために、中途半端な光密度ではイオン性鎖と中性鎖が混在した終状態になる。TTF-CAにおけるような強結合の場合、最初の中性ドメイン形成は周囲のイオン性背景により抑制される。しかし一度中性ドメインが形成されると周囲にも中性ドメインを作ってこれらが位相をそろえて成長し、全体が中性になって終わる。実験で観測されているような巨視的な相境界のコヒーレント運動には十分に強い鎖間相互作用が必要なことがわかった。
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