研究概要 |
今年度行った研究は、3次元ハイゼンベルグスピングラス(SG)の(1)基底状態と低励起状態の研究と(2)SG相転移点近傍でのオーダーパラメーター分布関数のふるまいの研究である。 (1)に関しては、スピンクエンチ法とハイブリッド遺伝アルゴリズムにより基底状態と低励起状態を調べた。基底状態の他に有限の励起エネルギーΔE〜O(J)をもつ、基底状態とは大きく異なった準安定状態の存在を確認した。三次元では、基底状態とその準安定状態を隔てるエネルギー障壁は系のサイズとともに大きくなり、その準安定状態が純粋状態であることが示唆される。このことは、分子場モデルのレプリカ対称性の破れ(RSB)の描像との類似性を示唆するが、その純粋状態の近傍の励起エネルギーについてのさらに詳しい研究が現在進行している。 (Parisi States in a Heisenberg Spin-Glass Model in Three Dimensions, 2004) (2)については、交換モンテカルロ法によりSG転移点近傍のオーダーパラメーター分布関数やSG帯磁率、Binder比などの物理量のふるまいを調べている。ハイゼンベルグスピングラスの場合には、そもそもスピン凍結をあらわすオーダーパラメーターをどのようにとるのが良いのかが自明ではない。そこでここでは従来使われてきたテンソルオーバーラップではなく、オーバーラップの対角成分の最大値をオーダーパラメーターとして採用した。その結果、オーダーパラメーター分布関数のふるまいは、カイラリティに対してだけでなくスピンに対しても、1ステップRSBを示唆する2ピーク構造が低温で現れることが観測された。このことは、ハイゼンベルグSGのBinder比に、なぜ相転移点での特徴的なふるまい(サイズの異なった系の交差)がみられないかを説明するものとなりうる重要な結果である。また、ランダム異方性を加えた場合との比較が、このモデルのSG相転移を解明する鍵となるとして、諸物理量の比較を行っている。 (Binder parameter of a Heisenberg spin-glass model in four dimensions, 2003, Three-dimensional Heisenberg spin-glass models with and without random anisotropy, 2003)
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