研究課題「Tsallisの非加法的統計力学に基づくカタストロフを含む複雑系の研究」に関して、平成15〜16年度の2年度間に、当初研究計画をほぼ予定通りに遂行した。まずはじめに、カタストロフを含む複雑系としてインターネットを取り上げ、Ping実験を実施し、パケットの旅行時間の時系列の統計的性質を調べた。旅行時間とその急激な変化が起きる転移点に関して、地震現象において知られているGutenberg-Richter則とOmori則が成立することを見い出した。次に、地震現象の解析を展開した。その研究の初期の段階で、余震における事象間相関を研究した。その結果、エイジングとスケーリンングという現象が存在すること、従って余震がグラスダイナミックスによって支配されているということを発見した。次に、二つの連続する地震の空間的距離および時間間隔がともにTsallis統計によってよく説明出来ることを見い出した。この結果を更に深く理解するために、「地震ネットワーク」という概念を提出した。これは、地震データの時系列を時間発展するランダムグラフに写像するものである。この地震ネットワークのトポロジカルな性質を研究した。その結果、それがsmall-worldネットワークであること、またscale-freeネットワークでもあることを見い出した。更に、有向グラフの立場から、地震のネットワーク上の周期の統計性を調べ、それがスケール不変であることも見い出した。 これらの応用的研究に加えて、Tsallisの非加法的統計力学に対する基礎研究においてもいくつかの重要な成果が得られた。まず、最大Tsallisエントロピー原理が最小相互エントロピー原理と無矛盾でるという要請から、非加法的統計力学における期待値の定義がq-期待値でなければならないことを証明した。また長距離相互作用をする非加法的系の熱力学について、これまでに数値解析により示唆されていた熱力学的スケーリング則を数学的に導出した。更に、1905年のEinsteinのブラウン運動の理論を拡張して、異常拡散現象を記述するfractionalなFokker-Planck方程式が如何に自然に導かれるかを示した。
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