研究概要 |
本研究は、反強磁性体における磁気励起による光学的性質に関する理論計算の研究として、スピン系の低エネルギー励起をスピン波描像に基づいて調べている。特に平成15年度は、有限スピン数の系を数値的に厳密対角化して、その固有値・固有ベクトルから交換散乱スペクトルスペクトルの再構成を試み、それを、スピン波励起と関連づけて解析した。対象とした量子反強磁性体は、平面上にシングレットダイマーがお互いに直行して整列した銅酸化物反強磁性体SrCu_2(BO_3)_2を対象として、基底状態におけるスピン間の相関関数、交換散乱スペクトル計算を通じて、低次元系に特有な量子反強磁性の低エネルギー励起の性質を詳しく調べた。具体的には、シングレットダイマー間の相互作用によって現れる新たな磁気相の構造を推測した。本研究は、交換散乱スペクトルの部分が査読付き論文としてMRS-J(Transactios of Materials Research Society of Japan Vol.28,No.4,(2003)pp.1307〜1310)へ公表された。さらに、相関関数の部分が査読付き論文として、MRS-J(2004)に印刷中である。また、この研究は磁性の発現を与える基礎メカニズムとして、ヤーンテラー歪の効果と密接に関連しているが、この効果を磁気的g因子に現れる量子カオスとして捕らえて論文としてまとめた。これは、磁性体研究に新しい視点を与えるものである。実際、これは査読を経て米国物理学会誌Phys.Rev.Vol.E68,(2003)p.046201-1〜8へ掲載された。現在は具体的に磁性化合物を対象としてヤーンテラー歪の効果と光学スペクトルとの関係を量子化カオスという領域から調べる試みを行っている。
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