研究概要 |
宇宙あるいは天体での物理現象は,重力が本質的な役割を果たすという点で地球の物理現象と大きく異なっている.これは重力エネルギーが物体の質量の2乗に比例するため,天体のような質量の大きな系では他の加法的エネルギーより大きくなるからである.本研究では,Tsallisにより提唱されている非加法的統計熱力学の枠組みを重力多体系に適用に,この系の熱力学的性質とくに準定常状態の性質を明らかにすることを試みた. 本研究の成果は3つに大別される.まず第1の成果は重力熱力学的不安定性(Gravothermal catastrophe)の一般化である.従来,この不安定性はBoltamann-Gibbsエントロピーを用いて解析されていた.これをTsallisエントロピーを用いたものに一般化した.その結果,極大状態としてポリトロープ状態が得られた.この状態は指数nをもち,より広いパラメタ領域で重力多体系の状態を記述できるようになった. 第2の成果は,ポリトロープ状態が準定常状態の系列であることを発見したことである.N体数値シミュレーションにより重力多体系の進化を調べたところ,重力多体系はポリトロープ状態の系列を指数nを次第に増加させながら進化することを発見した.さらに,ポリトロープ状態とは異なる状態からシミュレーションを始めたとき,まず系はあるポリトロープ状態に近づき,その後はポリトロープの系列を進化するという,非常に興味深い結果を得た. このように重力多体系は準定常的にポリトロープ状態の系列を進化していく.本研究ではポリトロープ指数nの進化を記述する方程式をFokker-Planck方程式と一般化された変分原理より導出することに成功した.これが本研究の第3の成果である.
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