グラファイトは摩擦力顕微鏡による多くの実験が行われ、原子スケールの周期的スティックスリップ現象、加重に比例した摩擦力など興味深い振る舞いが報告されている。また、グラファイトは最もよく使われる固体潤滑剤の一つであるが、その潤滑特性のミクロな機構はこれまで不明であった。我々はこれらの問題に答えを与えるため、グラファイトシートーグラファイトフレーク間の摩擦を分子動力学法により調べた。そして、原子スケールのスティックスリップ、実験と半定量的に一致する低摩擦係数などを再現した。そしてその低摩擦係数の原因が、グラファイトフレーク内に2種類の格子位置があり、それらがグラファイトシートから受ける力が半周期ずれるため摩擦力が小さくなるためであることを初めて明らかにした。さらに有限温度でのグラファイトの摩擦のシミュレーションにより、実験との比較を行った。 様々な摩擦現象はピン止めのある弾性体モデルにより表すことが可能だが、そこでは塑性変形の効果が無視される。塑性変形の効果を取り入れたモデルの詳細な解析により、プラスティックフローや、その領域での位相の秩序化、それらへのボルテックスの役割などを論じた。 プレート間地震は摩擦によって引き起こされるスティックスリップ現象の一種である。その強度分布がべき乗則に従うというグーテンベルグリヒター則が成り立つことが知られているが、これを再現するモデルとして、二つのプレートとその間のガウジと呼ばれる岩くずをモデル化したスプリングブロックモデルが良く用いられる。しかし、その際のブロック-プレート間の摩擦は多くの場合、速度とともに単調に減少する非物理的な関数形が用いられており、高速では摩擦力が速度とともに増大するより現実的な場合の振る舞いはこれまで不明であった。我々は、そのような場合でもべき乗則が成り立つこと、しかしそのべきの値は従来の場合と異なることを明らかにした。
|