摩擦はもっとも身近な物理現象の一つで古代から多くの研究が成されてきたが、その基礎的機構についてはいまだ未解決の問題が多い。この理由として、摩擦は物質、形状、表面状態、潤滑剤の有無等により、実に多様な様相を示す複雑な現象である事が考えられる。しかし摩擦力顕微鏡など近年の様々な実験手法および計算機の発達によって、これまで調べられなかったミクロスケールの摩擦など制御された環境下での摩擦の振る舞いが研究されている。我々はそのような実験に触発され、グラファイトからなる基盤とフレークの清浄表面間の摩擦を分子動力学法を用いた数値実験により調べた。グラファイトは典型的な固体潤滑剤の一つであり、この研究はその機構を解明するものとしても興味深い。我々は実験的に観測されている原子スケールのスティックスリップ運動や低摩擦係数を再現することに成功した。そして、グラファイトの低摩擦係数の原因はこれまで言われてきたように弱い層間相互作用のみにあるのではなく、フレークの2種類の副格子間で基盤から受ける力が打ち消しあうためであることを明らかにした。 第2種超伝導対中の磁束格子や電荷・スピン密度波のピン止めと運動は固体内摩擦現象であり、その研究は上記のような界面滑り摩擦の研究にも大きな知見をもたらす。近年、発見された超伝導体MgB2は金属間化合物としては最高のTcを持つとともに、2種類の超伝導ギャップを持つ系としても注目を集めている。我々はこの系の磁束が運動することによる電気抵抗の特異な振る舞いに注目し、これがまさに2種類の磁場依存性の異なる超伝導ギャップを持つことに由来することを明らかにした。さらにこの系では特異な磁束の振る舞いが期待され、研究を進めている。 これらの固体内摩擦現象を理論的数値的に扱うモデルとして弾性体モデルが良く用いられるが、そこでは、現実の系において重要な役割を果たすと考えられる塑性変形の効果が無視されている。この効果を取り入れたモデルを計算機実験により詳細に調べ、有限時間の観測ではある臨界外力で塑性流動層から動的固体層への相転移が起こること、しかしその臨界外力は観測時間とともに対数関数的に発散し、動的固体層は有限の観測時間でのみ安定であることを初めて示した。
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