本研究は、液体金属・半導体などにおいて温度または圧力の変化により金属-非金属転移を起こすことが実験的に知られている系に関して、金属-非金属転移の微視的機構と液体の構造、液体中の原子のダイナミクスの関係を理論的に調べることを目的としてシミュレーションを用いた研究を行ってきた。 本研究の成果の主要なものは、以下の通りである。 (1)臨界点近傍の流体水銀は非金属であり、Lennard-Jones型の有効イオン間相互作用で静的構造が記述される。この相互作用を用いて分子動力学シミュレーションにより、液体の動的構造を調べ、最近のx線非弾性散乱実験の結果と比較検討し、動的構造因子、分散関係、音速などの動的構造もこの有効相互作用で良く記述できることを示した。 (2)高温高圧下における液体リンにおいて液体-液体構造相転移が非金属-金属転移をともなって起こる。この構造相転移にともなうイオンのダイナミクスを第一原理分子動力学シミュレーションで調べ、P_4分子の振動モード、動的構造因子、音速などを求め、今後の実験に示唆を与えた。 (3)液体カーボンにおける圧力誘起構造変化および電子状態の変化を第一原理分子動力学シミュレーションにより調べ、圧力誘起構造変化の微視的機構、特に融点極大の起源、を解明し、新たな知見を得た。 (4)液体In_2Te_3合金における半導体-金属転移にともなう構造と電子状態の変化およびイオンのダイナミクスについて調べ、転移の微視的機構を解明した。また、液体As_2S_3合金における半導体-金属転移にともなう構造と電子状態の変化およびイオンのダイナミクスについて調べ、新たな知見を得た。 (5)IV族同士の混合系として、液体Ge-Sn合金における相分離の傾向を静的・動的構造および拡散機構と関連付けて調べた。また、液体Ge-Si混合系の構造や結合状態の温度・組成依存性について調べ、GeとSiの相違を比較検討した。
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