物性物理学の研究の発展において、計算機シミュレーションの果す役割が一層増してきているが、スローダイナミックスの問題がしばしばシミュレーションを困難にしており、これを克服する手法を提案することが急務である。新しいモンテカルロアルゴリズムを提案すると共に、それを用いて困難とされてきたランダム・量子スピン系の解明を行うことに本研究の目的がある。 第一に、Kosterlitz-Thouless(KT)転移を示す系への希釈の効果を調べた。2次元XYモデルと離散化したクロックモデルを取り扱った。浸透しきい値で連続的にKT転移が0になること、クロックモデルの場合には、低温で秩序相の現れる第二のKT転移があるが、その転移点も希釈により浸透しきい値で0となること、臨界指数ηが希釈によらず、KT転移に共通の値になることなどを示した。さらに、厳密な双対性の成立するq状態Villainモデルの場合に議論を拡張し、双対性に基づく関係式が成立するか吟味した。第二に、非平衡過程に対するreweighting法を開発した。平衡系では、ある温度のシミュレーションを行いボルツマン重みの付け替えで他の温度の物理量を計算するreweighting法が確立しているが、時間依存する非平衡系に拡張した。統計学で用いられるSequential Importance Sampling法に基づいて定式化し、イジングモデルの非平衡緩和の解析に応用した。さらに本質的に非平衡の転移である拡散格子ガスモデルに非平衡reweighting法を応用し、転移温度を決定すると共に動的臨界指数zを効率よく求めた。第三に、ナノ磁性体を念頭において、磁性体のダイナミックスを記述するLangevinタイプの方程式とモンテカルロ法の関係を議論し、モンテカルロ法に現れる時間を実時間を関係付ける因子を求めた。単粒子の場合と磁性体の集合体のそれぞれの場合に方法の有効性を示した。
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