研究概要 |
まず最も単純なモデルとして,内部振動の自由度をもつ1次元格子振動系,さらには,回転自由度をもつ2次元力学系を考え,系のエルゴード性と混合性が内部自由度の存在によっていかに影響を受けるか,という問題を調べた.力学系理論,特にハミルトン力学系の摂動論の立場から,内部自由度をもつハミルトン系における遅い緩和(相関関数が代数的,さもなければ,引き延ばされた指数関数型にしか減衰しないタイプの緩和)発生の基本的な機構を探ることが目的であった.この結果,内部自由度があるハミルトン系では,モデルの詳細にあまりよらず適当な条件下では,遅い緩和が現れ得ること,とくに,モードエネルギーのパワースペクトルにベキ的成分が現れることが確認された.これは,ハミルトン系における摂動論を用いた予言を支持する結果である.遅い緩和にの自由度依存性などについては,大規模の計算を要するため現在計算を継続中である.それと並行して,現実的な分子・分子集団系における遅い緩和の起源を調べる目的で,液相状態にある水のダイナミクスの分子動力学計算を行った.分子動力学計算の利点をフルに活用して,実際の分子のもつ質量,ポテンシャル,結合の角度などを可変なパラメータとみなし,さまざまな仮想的分子に対するシュミレーションを行い,誘電緩和,ラマンスペクトルなど実験的に観測可能な諸量を計算すると共に,瞬間基準振動解析などダイナミクスのより詳細な性質をモニターし,われわれの考える遅い緩和のシナリオと矛盾しないことを確認し,本研究の基礎固めを行った.
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