研究概要 |
(a)ハミルトン系の非双曲性によって、不変測度は一般的に発散する。このような系は数学的には無限エルゴード系(Aaronson,1997)と呼ばれ、最近急速に発展している。この研究では、無限エルゴード性によってもたらされるカオスの統計的性質として、スペクトル指数、緩和関数、さらにリャプノフ指数やLempel-Ziv Complexityなど多くのカオス統計量の間の厳密な関係式を導くことに成功した。さらに、無限エルゴード系の中に、厳密にレヴィ拡散方程式に従うクラスがあることを示すことに成功した。現在、非双曲系の不安定多様体の構造からSRB測度とは違う不変測度が導ける可能性を探求している。 (b)分子クラスターの形成においても無限エルゴード的性質があることを見出し、その分布関数に普遍的にワイブル分布が出現することを報告した。また、ワイブル分布は外部からの摂動に対して安定であり、大偏差特性(Wentzel,1995)を満足していることを理論的に導くことができた。これは非双曲的構造が摂動に対しても充分安定であることを示すものである。ここでの理論的手法は、一般のハミルトン系(非双曲的)に対して有効性を持っていることから、高次元クラスター形成の微細な内部構造の研究にも適用され、1/fゆらぎと、アーノルド拡散によるクラスターの寿命(運動論的法則)に対する数値実験の分析に応用された。
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