研究概要 |
本年度の研究においては,主にシンクロトロン近似を超えた放射公式に交差対称性を用いることによって導いた,対生成確率の新公式の定量的研究を行った.まず,式の有効性を,数十GeV以上のγ線が結晶に入射した際に生じる電子・陽電子対の実験結果(一様場近似では本質的に説明できない)を,撃力近似によってある程度説明できることを確認した.さらに、撃力近似を用いずに散乱角を正確なポテンシャルによって求め,対生成確率の実験結果をさらに詳細に説明することを試みた.ポテンシャルとしては熱平衡MoliereポテンシャルとDoyle-Turnerポテンシャルを用いて比較した.その結果,Moliereポテンシャルの方が実験値をよく再現することが分かった.また,角度依存性を計算したところ,フィッティングパラメタを含まないにも関わらず,実験値の全体の振る舞いをよく再現することが分かった.さらに,一様場近似では場が弱いために対生成確率が事実上0になるような領域でも,non-dipoleパラメタの小さい領域で対生成確率が存在することを明らかにした.ここまでの成果を論文にまとめ,現在投稿中である.なお,対生成のエネルギー依存性を調べたところ,TeV領域では対生成率のピーク値と角度広がりの双方共,急激に減少することが明らかになった.また,放射に関しては,特にnon-dipoleパラメタが小さい場合について考察した.その結果,Bethe-Heitlerのような直線軌道的計算とは異なり,赤外極限で有限値を与えることを見出した.これは,Landau-Pomeranchuk効果とも直接関係する重要な発見であると考えられる.なお,本研究は,海外共同研究者であるMurat Khokonov教授と共同で行っている.
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