研究概要 |
多価イオンによる電子捕獲過程の研究は核融合、X線レーザー、半導体素子加工、放射線医療、宇宙物理などと関連して非常に重要である。この電子捕獲過程の断面積には、低い衝突エネルギーで共鳴現象による鋭いピークが現れると予測されているが観測は未だ成功していない。 共鳴ピークが観測しやすい系を見出し実験に資するとともに、共鳴のメカニズムを解明するため、双極子分極率の大きいアルカリ金属を標的として計算を行なった。既に(He^<2+>,Be^<2+>+Li,Na, K)衝突系、(Be^<4+>,B^<3+>,C^<4+>+H,Na)衝突系、更に計画にはなかったが(Li^+,Li^<2+>,Li^3+Na)衝突系に対して量子論的緊密結合法を用いて電子捕獲断面積の計算を行い、共鳴が起こる衝突エネルギー、ピーク幅を求めた。またこれらの計算結果を用い、標的原子依存性、入射イオン依存性、電荷依存性の観点から比較を行ない、共鳴現象の解明を行なった。更に、(He^<2+>+Li,Na)衝突系を選び、スペクトル法を用いて共鳴状態の固有値、固有関数を求めるとともに、核波束法を用いて共鳴のダイナミクスを調べた。これにより時間が経っても同じ核間距離に留まっている波束を可視化することに成功した。 結果をまとめると、より高い衝突エネルギー領域で共鳴を観測するには、標的原子は分極率が大きく原子番号が大きいもの、入射イオンは電荷の大きいものが有利であるが、電荷を大きくした時のクーロン反発および共鳴に関係する状態の関与する疑似交差点の位置、その点でのエネルギー差によりポテンシャル井戸の深さが変わるので、標的原子と入射イオンを注意して選ぶ必要があることがわかった。これまで計算した系の中では(He^<2+>+Li,Na)衝突系で最も高い衝突エネルギー、共に約0.3eV、で共鳴が観測されるという結論に至った。
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