1.反陽子と水素分子イオンの衝突による電離過程、反陽子水素原子(プロトニウム)生成過程について調べた。 (1)まず、反陽子と陽子を共線(collinear)配置に限った衝突過程を考え、衝突の間の電子状態を詳しく調べた。この結果、反陽子と水素分子イオン系では断熱(ボルンオッペンハイマー)近似が良いことがわかった。つまり、この衝突過程は化学反応と同じように扱うことができることが判明した。これは非常に興味深い結果でる。なぜなら、反陽子は負イオンであり、負イオン反応として、断熱近似が使えることが明らかになった初めてのケースである。本研究は新しいタイプの化学反応過程の存在を例示したことになる。 (2)そこで、任意の配置に対する断熱ポテンシャルエネルギー曲面の計算を行い、このポテンシャル曲面上でのプロトニウム生成反応と解離反応を古典軌道モンテカルロ法を使って調べた。そして、水素原子との衝突よりもより高エネルギーでプロトニウム生成が可能であることがわかった。 (3)生成されたプロトニウムの内部状態分布も調べた。この情報は生成プロトニウムの対消滅に対する安定性を論じたり、レーザー分光等の実験で実際にプロトニウム原子を識別するときに非常に重要になる。 (4)振動・回転の励起状態にある分子からの反応も計算した。その結果、回転励起も振動励起も同じように生成効率を上げること、しかし、高エネルギーになると生成効率は励起状態にあまり依らないことがわかった。 2.反陽子とリチウム原子の衝突による反陽子リチウム原子生成過程について調べた。水素原子との衝突に比べて、生成断面積がはるかに大きいこと、また反陽子リチウム原子は非常に高い角運動量状態に生成されることがわかった。後者は、特に安定な反陽子原子生成という観点から非常に重要な発見である。
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