1.電子伝達蛋白質における電子伝達に関わる再配置エネルギーの直接測定の理論の構築:光合成系においては、それを構成する種々のサブシステム間を電子が伝達されることが重要である。電子伝達の速度を決める肝要な因子は、電子伝達蛋白質の酸化還元に伴う蛋白質媒質再配置エネルギーである。その値は殆どわかっていない。またその値は、酸化還元に際して蛋白質中における非常に多くの原子や原子集団が少しずつ変位することに伴うエネルギーの総体として得られるものであり、理論計算では信頼できる値を得ることは現段階では殆ど絶望的である。蛋白質のような巨大分子における電子波動関数の計算および酸化還元に伴う原子や原子集団の変位の計算の信頼性が現時点では乏しいからである。そこで、走査型電子トンネル顕微鏡(STM)において電子伝達蛋白質を通ずる電流のバイアス電圧依存性を光照射下で測定することによって、電流立ち上がりの閾値電圧間の差として再配置エネルギーが直接測定できることを理論的に示し、そのような実験を提案した。 2.分子集合体間における励起エネルギー伝達の一般理論の構築と具体的な系への適用の理論:光合成においては、アンテナ系における色素の励起による太陽光捕獲に続いて、アンテナ系を構成する種々のサブシステム間を色素励起エネルギーが次々と伝達される。各サブシステムは色素集合体となっており、その励起状態は、多数の構成色素が量子力学的にコヒーレントに結合した励起子になっている。サブシステム間の距離は各サブシステムの大きさと高々同程度である。このような場合には、励起エネルギー伝達の速度に関する従来の(フェルスター)理論は適用できず、この場合にも適用できる一般理論を筆者は提唱してきている。理論適用の具体例として、光合成系およびメゾメゾ結合ポルフィリン鎖を取り上げ、観測事実がこの理論により旨く説明できることを示した。
|