今年度は当該研究にとって実り多い年だった。得られた主な成果は以下に列挙する4つである。 1、光合成の初期過程においては、太陽光エネルギーがアンテナ系で捕獲され、色素励起エネルギーとして反応中心に伝達されるが、そこでは膜間電位差に逆らう電荷分離が起こり色素励起エネルギーが初期固定される。このとき、反応中心中で膜のルーメン側にある中心色素対Pが酸化され、膜のストローマ側にある色素が還元される。高等植物および藻類の光合成を司る光化学系IとIIの内、光化学系IIにおいては、水が電子を引き抜かれる。そのため、太陽光エネルギー捕獲によりできた反応中心中のPの酸化状態の酸化還元電位は(水からも電子を引き抜き得るほど)高く設定されている。この設定の反作用として、Pの励起エネルギーは他の色素より高くなってしまうことと、アンテナ系からエネルギーを受けて励起される反応中心色素BはPとは異なるようになる。この状況において、Bの励起がPの酸化状態を生成する機構を明らかにした。 2、上で明らかになった機構は、他の光化学系には見られないものだった。ところが光化学系IIと紅色光合成細菌の光化学系は共通の先祖から進化してきたことが分かっている。従って、これでは、両者における色素励起エネルギー初期固定過程は定性的につながってないことになり、進化の連続性原理に反する。ある種の紅色光合成細菌は極低温においては光化学系IIと定性的に同じ機構で初期エネルギー固定することとつなげて、進化に関する上記の疑問を解消せしめた。 3、光化学系Iのアンテナ系には、励起エネルギーがPよりも低い赤い色素が存在する。赤い色素の励起が反応中心中に電荷分離状態を生成させる機構は不明だったが、電荷分離鎖を構成する色素がPへの励起エネルギー伝達を量子力学的虚の過程として仲介していることを明らかにした。 4、紅色光合成細菌おいて、初期エネルギー固定の結果できた電荷分離対が再結合しP上にスピン三重項が生成する過程でも、量子力学的虚仲介が重要な役割を演じていることを明らかにした。 これらの成果は、国際会議招待講演として発表された。同時に現在、順次論文として執筆中である
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