研究概要 |
我々は粗視化したスケールの揺らぎに比べて充分小さいが、微視的スケールの揺らぎに比べて大きい変位に対する「粗視化されたレベル」における協同運動を図る指標としてカオス力学系の有限サイズリヤプノフ指数を用いて「進化の所産として獲得された(とされる)」ファネル型と非ファネル型エネルギー地形をもつたんぱく質における遅い大振幅ダイナミックスにおける協同運動を解析した。有限サィズリヤプノフ指数とは、端的にいえば、可変な有限解像度のもとでの軌道不安定性の強さに対応する。解析の結果、微視的仁は強いカオスであるが、大振幅運動を伴う主成分座標に投影した運動は「(微視的な)強カオス→(粗視化されたスケールの)弱カオス」への転移が観測され、フラストレーションがより小さいファネル型エネルギー地形ほど顕著にその傾向があることが分かった。 エネルギー地形上の凸凹(ruggedness)が存在することで、反応が加速される現象が理論・実験の両面から近年指摘されているが、その理論的な解釈は充分与えられていない。蛋白質キネテックスを多遷移過程として捉えるC.Wagner & T.Kiefhaber PNAS 96,6716(1999)などを参照し、「どのような条件下で異なるサドルを通過する反応軌道のあいだにダイナミカルな相関が持続しえるか」などの多遷移ダイナミックスに関する一般的性質を抽出するための反応座標と熱浴自由度から構成される多遷移ダイナミックスの力学系モデルを構築した。このほか、蛋白質ダイナミックスの主成分空間の多重エルゴード性に関する研究なども行った。 研究成果に関しては、国際会議4件(うち、2件は招待講演)および日本蛋白質科学会、日本物理学会、分子構造総合討論会などで発表し、学術雑誌Adv.Chem.Phys.の編集と総説執筆を行った(2004年度以内に出版される予定)。
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